〜 第一部 〜
IM6組ガバナー公式訪問
合同例会 ・テーマ「多くの友達をつくろう」



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 最後4つ目は、これはラタクルさんの出身地タイのお国の事情もありますので、ぜひご協力をお願いしたいんですが、識字問題です。世界で約8億の人間が字を読めない。そのうちの7割から8割が女性です。字の読めない人は、大体極貧の生活でございます。何とか収入を上げてやろう、何か教えようといっても、字が読めないとどうしようもない。だから、どうぞヨーロッパ、アメリカ、日本など識字問題を一応卒業したような国は、開発途上国の字の読めない人に援助の手を差し伸べてほしい。こういうことを再三お願いされております。
 日本では字の読めない人はほとんどというか、よほど心身障害者でないとないわけでして、100%読めると申し上げてもよろしいかと思います。ですから、字が読めなかったらどうなのかということを周りで見ることができませんので、かわいそうだなという感覚が浮かんでこないかもしれませんけれども、非常に難しい問題であります。
 例えば、ポリオで「いついつここへ来なさい。ポリオのワクチンを飲ませてあげましょう。これを飲んだらポリオになりませんよ。」ということを立て札に書いても、どうしようもないわけであります。口コミで言わなければしようがないということになります。これが今のポリオの最後もう少しというワクチン投与に非常に障害になっているということは、おわかりのことだと思います。そういう意味でも、識字運動に、周りにはありませんけれども、ちょっとお手を差し伸べていただきたいなと思います。
 こういう4つを皆さん頭に置いていただいて、クラブの活動方針をお考えいただきたいなと思っております。殊に、増強の問題にしましては、昨年の11月にありました第1回目の会長エレクト研修セミナーで時の会長エレクト――今の会長さんにアンケートをお出しいたしました。「おたくは来年どれぐらいの増強をお考えでしょうか。」というお伺いを立てました。ご返事をちょうだいいたしまして、平均いたしますと5.6%になります。かなりの高率でございます。これが100%達成できるかどうかは別問題といたしまして、皆さんからそういう数字がちょうだいできるということは、各クラブとも増強は大事だなということを認識されている証拠であろうと思います。
 したがいまして、私はそういうご返事をちょうだいしておりますので、私の任期の間、皆さんに対して増強、増強ということは一言も言わないつもりであります。ですから、来年の6月末、私の任期の終わりますときに、11月ごろに書いていただいた手形を額面通り落としていただくということをお願いするだけでございます。5.6%といいますと、170〜180人の増ということになります。ちょうどこの6月末から7月にかけて減りました数がそんなものであります。ちょうどそれがカバーできるぐらいの数字をちょうだいしているわけでございます。
 ラタクルさんは50年ほどロータリーにおられるんですが、入ったときのことを思い出してお話しされました。「私が入ったときは100%完璧な会員だった。ちゃんと例会には全部出ました。会費もきちっと払った。しかし、週末等にある奉仕活動は手を挙げなかった。参加しなかった。そのときは、私は、よその人に手を差し伸べるという週末よりも、私自身の週末の方が大事だったんだ。」とおっしゃっておりました。
 あるとき、ラタクルさんのクラブが母子家庭の子供を海水浴に連れていこうという計画を立てまして、「誰か連れていってくれる人……」と会長さんが会員さんに頼まれたんですが、そのときもラタクルさんは手を挙げなかった。「やっぱりわしはわし自身の週末の方が大事だった。」ということです。うまく逃れたと思っていたらしいんですが、その奉仕の前日の晩になりまして、「どうしてもおまえが行ってくれんと何人か連れていけんようになるから、どうしても出てくれ。」という会長からの強い要請がありまして、渋々参加したそうであります。
 当日になって自分の車に子供を何人か積んで海岸へ連れていきました。子供はすぐに喜んで海へ飛び込んで遊んでいるわけですが、たくさんの子供の中に1人、どうも気に入らん子供がいて、ほかの子供もその子供を除け者にしているらしいので、まあそうやろなと思ってある程度納得していたんですが、子供の方がラタクルさんに非常になつきまして、いつもそばにおる。横を見たら近くにおる。最初のうちラタクルさんは、「早くきょう1日が終わらないか。何とかこの子供が離れてくれんか。」ということを必死に願っていたらしいんですが、余りにもそばを引っつき回りますので、ちょっと考え方が変わってきたらしゅうございます。「これだけわしのそばにおるんなら、何か私を必要としているんじゃないか。それが何か一遍調べてみよう。」という感じになりました。
 「そういうことは非常に簡単なことだった。」とおっしゃるんですが、例えばお昼御飯のときに隣に座るように段取りしてやる。子供が除け者にしようと思ったら、うまく仲を取り持って仲間に入れてやるようにしよう。二人乗りのカヌーを借りてきてちょっと海の上をこいで回ろうということをやっているうちに、だんだん打ち解けてきまして、きょうは早く終わらないかということをそんなに思わないようになってきました。
 夕方になって車に積んで、そのときも自分の隣に座れるように段取りしたそうですが、各家へ連れて帰るわけです。ほかの子は帰るなり、ぬれた海水着を持って、「おじさんありがとう。ただいま。」と家へ飛んで帰るんですが、その子は家へ入らずに、薄暗い玄関でこちらを向いて立っていたんです。ラタクルさんもどうしたのかなと思って前に立っていたら、急にその子がラタクルさんの足に抱きついて、「あなたが私のお父さんだったらいいのに。」と言ったそうであります。ラタクルさんはそれを聞いて涙が出てきたんですが、「薄暗くなっていましたので誰にも見られなくて済んだ。」と言って笑っておられました。
 そしてラタクルさんは、「あの少年とあの1日のおかげで私は他人の喜びを自分の喜びにすることができた。ちょっと何かしてやったおかげで子供が非常に喜んだ。よかったなと思って相手の喜びを自分の喜びにすることができた。もしあの子とあの1日がなかったら、きょうここで皆さんの前でお話ししてなかったでしょう。」皆さんというのは我々エレクトですから、ラタクルさんのおっしゃるのは、「あれがなかったらRIの会長にはなってないよ。」ということです。
 皆さん、ちょっとお考えください。母子家庭の子供を海岸へ遊びに連れていこうという奉仕活動をやろうとクラブは計画した。そのときに、会員の皆さんとしてどういう援助の方法があるかということなのであります。ラタクルさんは自分の車を運転して子供を乗せて行った。しかし、そういうことをせずとも、「いや、おれの会社に運ちゃんつきの車が3台あるから、土曜日に使うてくれや。」というのもありがたい話であります。それから、「何人行くんや? 30人か。よし30人分の昼飯おれが引き受けた。」というのもクラブとしてはありがたい話であります。また、「午後に一遍海岸でスイカ割りやろうや。スイカ10個おれが持っていってやる。」というのも奉仕の一つであります。どれもみなありがたい話なのであります。そういう物品や資金の援助をされて、された方が一緒に海水浴に行かなければ、ラタクルさんが感じられたような、相手が喜んだ、よかったなという感じを味わえないんじゃないかと思うのであります。
 ですから、ロータリークラブでそういう奉仕活動、つまり車を出したり昼飯代を持ったりスイカを寄付したりということをやられたら、確かにいいんですが、それでもらった人がどうだったのかということまで一歩踏み込んで、その反響といいますか、どれだけ喜んでいただいたかということを聞いて、そしてそれをしていただいた会員さんに「あんたのおかげでみんな物すごい喜んだ。」ということをお伝えするのが、奉仕活動の最後の詰めといいますか、義務ではなかろうかなと思います。
 やはりロータリーの奉仕の原点といたしまして、奉仕活動をした、相手が喜んだ、その喜びは奉仕活動した人の喜びとして返ってこないとだめなのであります。これが私はロータリーの奉仕活動の原点ではないかと思います。そのためには、ラタクルさんがやられたように、幾らかでも奉仕の現場に足を突っ込んで、目で見ていただくというのが一番早道ではないかなと思うところです。



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