帰国報告 | 三輪千明 (堺フェニックスロータリークラブ) (2000〜2001年ロータリー国際親善奨学生) |
一年間の留学を終え、先月末に無事帰国致しました。カナダのトロント市にあるトロント大学大学院で開発途上国の教育問題を学んでおりました。就学していたのは一年半のプログラムでしたが、年齢が年齢だけに少々焦りまして、一年間で教育修士号を取得して参りました。このように当初の目的を達成し、かつ無事に帰国できましたのも、ロータリー財団とロータリアンの皆様の温かいご支援をいただいた賜物と感謝しております。 よく、ロータリー奨学生は留学を終えると一回り大きくなって帰ってくると言われますが、私の場合、精神面に劣らず肉体的にも一回り以上大きくなったようで、只今減量に励んでおります。思い返せば、奨学生合格のご通知をいただいたのは2年少し前のことですが、その当時の自分と今を比較してみると、この間に学んだ事の多さ、得たものの貴重さに認識を新たにいたします。本日は、大学院について、カナダという国について、現地のロータリー・クラブについて少しお話をさせていただきたいと思います。 大学院では、感銘を受けたことが二つありました。一つは、学生の多種多様性です。私は一旦社会に出てから復学したため、日本の大学院では若い方々と机を並べ、違和感を覚えることも少なくありませんでした。しかし、トロント大学の院生は年齢経歴とも多様で、中には現職の校長や教員も多く学んでいました。当然ながら、学業にも真剣さがあり、学期中は学生も教授も緊張感をもって授業に取り組んでいました。留学当初、そんな学友に混じって、外国人の私が授業中に発言するのは勇気のいる事でした。そんな時はいつも、「外国人としてカナダ人の2倍の学費を払っているんだから…」と考えて自らを励ますようにしていました。物事を損得で考えると俄然勇気がでるのは大阪人の性でしょうか。 もう一点は、学生の研究活動に対する大学側の支援が非常に充実していたことです。図書館は土日を問わず真夜中まで開いていますし、コンピューター・ルームは24時間開放されていました。また、私は在学中に北米の学会で発表する機会があったのですが、その費用は全て大学側の財源から賄われました。このように、大学院が生涯学習の重要な一貫を担っているという点、そして研究活動への万全な支援体制が整っているという点には、日本の大学院があるべき将来像を見るような思いがしました。 私が特にカナダに興味をもった理由の一つに、国連機関が算出する「人間開発指数」というものがあります。これは、開発というものを単なるGDPから見た経済発展だけでなく、教育や保健という社会開発を含めた広い視野で評価しようというものです。カナダは、その人間開発指数で数年間世界第一位を誇ってきた国です。因みに最近のデータで日本は確か六位だったと記憶しています。一位の国に住んでみると、生活のどこがどう違うのだろうと興味津々でした。実際に住んでみると、生活上の便利さについては日本と大差ない上、街のあちこちではホームレスの人々が野宿をしたり、昼間から物乞いをしたりしている人もよく見かけました。一方で、滞在が長くなるにつれ、生活の中で社会弱者に対する配慮を感じる場面が出てきました。例えば、ある日、それまで何気なく使っていた大学寮のエレベーターの押しボタンが非常に低い位置にあることに気づきましたが、これは車椅子の人が健常者と共に無理なく使えるための配慮だと知りました。気をつけて見てみると、通学路の歩道もバリア・フリーでした。また、猛暑に見舞われたある夏の日、翌日の新聞の一面には、冷房設備のある公共機関の一部をホームレスの人々に開放したという記事が載っていたりしました。私自身は、これまで開発途上国に住んでいた経験から、日本は先進国だという意識が非常に強かったのですが、カナダで生活をしてみて、日本にもまだまだ改善の余地は少なくないことを改めて感じました。 その学校訪問では一つ驚いたことがありました。それは国旗国歌の扱いです。カナダではあらゆるところで国旗を目にするのですが、各教室内にも小さな国旗が掲げられていました。そして授業の始まる前には校内放送で国歌が流れ、児童は起立して斉唱します。最近義務化されたということですが、国歌斉唱が日課となっている点には大いに驚かされました。更に驚いたことには、現職の教員と話してみると、これでもカナダ市民としての教育は不十分だと彼らが感じていることでした。現役の移民国家であるカナダと日本とを単純に比べることはできませんが、国家と個人という関係について深く考えさせられる機会となりました。 特に、今年の夏は、教科書や靖国参拝など日本のニュースがカナダの新聞等でも度々報道されていましたが、そこに見る日本のイメージというものが如何に一面的であるかを知って、非常に残念な思いがしました。カナダの最大紙に、「日本の子供が真珠湾攻撃は日本軍の最大の功績であると学んでいる」とか、「日本は戦争の反省をしていない」などと書かれていた時には、反論する投書を読者欄に寄稿したことも一度ならずありました。当時は課題の締切りが迫っていて忙しかったのですが、一面的な報道に対する憤りを感じ、わざわざ時間を割いて書いたのです。しかしながら、話が面白くなかったからか、私の英語が拙かったためか、残念ながらいずれも掲載されることはありませんでした。ただ、少なくとも個人レベルでは、こうした問題についてアジアや北米の友人たちと忌憚のない議論を交わすことができたことは大きな成果であったと思います。また、地道ながらそういう努力を続けることの大切さも感じました。 トロント滞在中は、現地のロータリー奨学生委員長がとても面倒見のよい方で、とてもよくしていただきました。スピーチは20分程度のものを2回、短いもの3回させていただきました。ご招待いただいたクラブは、いずれも日本のクラブに比べてインフォーマルな感じで驚きました。これ以外にも、地区内クラブによる募金活動への参加や、紅葉ハイキング、地区の年次大会にもご招待いただいた上、委員長のご自宅でのホーム・パーティにも何度も招待いただきました。また、堺フェニックス・クラブでは長らく大阪刑務所図書館へ外国語図書を寄贈されておられますが、入手困難な言語もあるため、国際色豊かなトロント市ギリシャ語やウルドゥ語などの古本を集めることも出来ました。この件に関しましては、ホスト地区の奨学生委員長に特にご尽力いただきました。 今後の進路としましては、日本の大学での博士課程がまだ残っておりますので、10月より復学の予定です。その後どのような職に就くにしろ、今回の留学で得た一級の教授陣との交流、友人との交流、そしてロータリーの奉仕の精神を、生涯の財産として大切にしていきたいと思っております。ご清聴、有難うございました。 |